久々に小説という表現手法でしか なし得ない本に出会いました。
「未来」 湊かなえ著
物語は、学校にも家にも居場所がない少女のもとに20年後の自分から手紙が届く・・・ところから始まります。
主人公の少女を軸に家庭や学校、様々な人の悩みや葛藤、境遇が語られていきます。
この描写がえげつない程心に刺さります。
文字が足元から絡みついてくるような感覚に落ち入ります。
読み進めるうちにグラグラ頭が揺さぶられる。
本を読んでいてこの感覚は初めて味わいました。
テレビや映画のような映像作品では味わえない小説ならではの文字と読者の想像力にゆだねる方法。
まるで著者に「お前にこの境遇をリアルに想像できるか?」と試されているかのような感じがします。
貧困=お金がない、という単純な図式ではなくあらゆるものが足らない。
お金も愛情も知恵も人間関係も運も。
全く何にもない。
「ケーキの切れない非行少年たち」(宮口 幸治著)で評された世界が蕩々と語られます。
目を背けたくなるような描写が続きますが読むのをやめることができない。
物語にどんどん引き込まれていく。
文字が絡みついて離れない。
そして考えさせられるのは「実力も運のうち 能力主義は正義か?」(マイケル・サンデル著)で語られた、成功できない人間は本人の努力の問題なのかということを深く考えさせられます。
様々な貧困や社会課題を述べる本を読んで知識としての「子供の貧困」というものに多少なりとも興味はありました。
しかし、周囲にそういう人達がいない(可視化されない)ために自分の中に圧倒的リアリティが足らなかったということを思い知らされました。
「読書とは代理体験である」というのを久々に痛感する作品でした。
なかなかヘビーな題材のため、心が落ち込んでいるときには読まないほうがよいです。
元気な時に読みましょう。
誰にでもお勧めできる本ではありませんが、多くの人に読んでほしいそんな作品です。
そして、誰もがいつでもこの本が読めるくらいに体も心も健康で幸せでありたい(あるべき)ということを、深く考えさせられる作品でした。