この記事のあらすじ
・9月入学にすると生涯年収が減るのではないか?
→その考察。
・いろいろな人がいろいろな点を指摘しているので別の視点であぶりだされた問題点も考慮してほしい。
・これが一番大事な問題点ということではない。制度の一部を変えるとそのほかの部分も最適化しないと歪みが出るという話。
9月入学にしたほうが良いのか?悪いのか?
様々な議論がなされていますが、ここにきて文部省から2つの案が出てきました。
文部科学省から案が出てくると議論が本格化しそうな気配です。
ただし文部科学省から出たのは仮に9月入学にするのなら・・・との案ですので、9月入学にしたほうが良いとも悪いとも言っていません。
(オフィシャルな文書は見つけられず。ニュースでも「関係する各省庁の事務次官らが出席する会議に提示」との記載)
パターン①
2021年9月に12か月+5か月=17か月分の新入生を受け入れる。
今の年長さんが影響を受けます。いつもなら4月に入学できるところを9月まで待たされます。幼稚園の期間が5か月長くなります。
年長さんより年上の学生は強制的に5か月卒業が遅くなります=在学期間が長くなります。(高校卒業まで6年+3年+3年+5か月)
年中さんの4~9月1日生まれは幼稚園での生活が途中で打ち切られて9月入学の制度に一足早く移行します。この後、世の中が9月入学で進むのであれば現在の大人と在学期間は同じです。(高校卒業まで6年+3年+3年)
これより後に生まれた子供は現在と同じ在学期間になります。(高校卒業まで6年+3年+3年)
パターン②
来年度の小学校1年生だけに1.4倍もの新入生が入学すると小学校の人員的にも施設的にも影響が大きすぎます。そこで5年かけて13か月分の新入生を迎え入れようというのがパターン②です。
以上の画像はhttps://www3.nhk.or.jp/news/html/20200519/k10012436571000.htmlより引用
例年よりも1か月分(約8%)多い人数を受け入れるだけで済みますから影響は小さく、人員的にも施設的にもやさしいインパクトです。
来年の9月からの話であればどちらのパターンでもまだ生まれていない子供は影響はありません。就学するころには時期が9月に移行するだけで在学期間に関する差は現在の大人と変わりません。(高校卒業まで6年+3年+3年)
しかし、実現可能かどうかとは別のレベルで、今学生の子供たちにとって良い変更なのかのか?悪い変更なのか?議論が必要です。
大事な項目、大きな障害となる点、メリットデメリットは色々なところで色々な人によって議論されています。
しかし、そこから抜け落ちている気になることが何点かありました。
そこで、ここでは私が気になったことの一つ
「9月入学にすると現在の学生は生涯所得が減るのではないか」
ということについて考えます。
検討条件:定年は60歳、再雇用で65歳まで働ける、賃金は平均を考える
(会社によって異なりますし、今後の社会条件によっても変わることが予想されますが今考えられる一般的な条件で考えます。)
パターン①にしてもパターン②にしても制度変更の影響を受けるのはこれから入学する子供のように見えてしまいます。しかし、一番大きく影響を受けるのは今現在の学生、生徒、児童のみなさんです。
来年の9月に入学時期が変わるということは進級時期も9月になります。本来なら2021年4月に進級(または2021年3月に卒業)する予定が強制的に5か月間遅れます。
これは学校に在学する期間が5か月長くなり、社会に出るのが5か月遅くなります。
就職する際にほとんどの人はどこかの会社に採用されて勤めることになります。
ほとんどの会社は新卒を対象とした採用は年に一回一括採用です。
前の年度に卒業した学生が新年度一気に入ってきます。しかし、一般的な定年は60歳と決まっています。会社では入社は一括だけど、定年は60歳になる誕生月の月末と決まっています。つまり卒業が5か月遅れるということは給料を受け取る期間が5か月短くなります。
さらにその5か月は給料の安い若い時ではなく、新入社員の何倍もの給料がもらえる期間が5か月短くなるのです。
ではその短くなる5か月間にいくらもらえるはずだったのか見てみます。
厚生労働省が毎年行っている賃金構造基本統計調査から定年直前の年収を調べてみます。
55~59歳までの賃金は男性:416.6万円、女性:266.8万円となっています。
調査対象は正社員・正職員、正社員・正職員以外(契約社員・派遣社員)、短時間労働者(パート・アルバイトなど)となっています。正社員・正社員以外・短時間労働者の比率まではこの調査結果には載っていませんでした。男性と女性で大きな差が出ていますが、雇用形態の違い、労働時間等何が賃金の差を生んでいるのかまではわかりません。
ざっくりと男女の平均として考えます。
年収は(416.6+266.8)÷2=341.7万円
341.7÷12か月×5か月=142.4万円。
厚労省のデータでは平均で5か月働く時間が短くなると
受け取る生涯賃金が140万円ほど少なくなると考えられます。
しかし賃金構造基本統計調査では雇用形態の違いによる差や、労働時間の長短もすべて含まれてしまします。途中転職することはあるにせよ、卒業後フルタイムで60歳まで勤め上げた人の賃金を反映していません。
そこで地方公務員を例に考えてみます。地方公務員は男女で採用、賃金に差がなく女性も出産・育児を経ても勤続する人が多く、卒業後60歳までフルタイムで勤め上げた人の賃金を想定するモデルにふさわしいと考えました。また、公務員の給与は全産業の平均に近くなるようにデザインされているためこれを参考にします。
(公務員給与のデザインについては議論のあるところですがここでの主眼はそこではないのでとりあえず良しとします)
56~59歳で年収862万円となっています。
862÷12か月×5か月=359.2万円。
受け取る生涯賃金が360万円ほど少なくなると考えられます。
これは賃金だけですので、勤続年数が関係してくる退職金を計算する式にも影響が出ます。
ここまでの計算では5か月でした。それでは来年からの急な変更に企業側が対応できるでしょうか?できる企業もあるし、そうでない企業もあるでしょう。
制度が変わって就職も決まって8月に卒業したけれど、会社での仕事は4月からという事例も出てくると思います。そうなると5か月在学期間が長くなり、卒業後7か月間の空白期間が生まれます。結局1年分の給料を受け取る期間が短くなります。現在の大学4年生、3年生くらいまでは影響あるでしょう。生涯賃金が860万円少なくなることも十分に考えられます。
140万円、360万円、860万円とさまざまな数字が出てきました。
ここでシュミュレーションしたのは一人の金額です。
しかし、この影響は現在学校に通っているすべての人に影響します。
小学校1年生から大学4年生まで、各年代100万人いると仮定すると1,600万人に影響します。
あいだを取って140万円と360万円の平均とします。
(140+360)÷2=250万円
16,000,000人×2,500,000円=40,000,000,000,000円
4.0×10の13乗(≧◇≦)
合計で40兆円という途方もない金額になりました( (+_+) )
140万円、360万円、860万円とさまざまな数字が出てきました。
我々の子供たちがどのような職業、働き方を選ぶかはわかりません。
社会も変わっていくでしょう。
ですが、制度を変えるには様々な面からの検討が必要だと思います。
おまけ
タイトルで煽ってますが、140万円、360万円、860万円の平均をとると
(140+360+860)÷3=453.3≒500万円。
これが由来となっています。
ちなみに受け取る賃金の減少が500万円だとすると全体で80兆円になります(/・ω・)/